2017.6月号
「花より団子派 」
ポカポカと暖かい陽気が続き「春だなぁ」と実感する最近ですが、今月号が出るころには日本一遅いと言われる桜も丁度満開を迎えるころでしょう。この根室の桜は日本で一番遅く咲くのはもちろんですが、全国で唯一開花宣言の指標となる標本木に「チシマザクラ」を使っていることとしても有名で、他の地域の標本木には一般的に「ソメイヨシノ」が使われています。
もはや桜と言えば「ソメイヨシノ」と言われるぐらい他の地域ではメジャーな桜なのですが、この「ソメイヨシノ」は他の動植物と違い、自らの力で子孫を残すことが出来ません。江戸時代頃に人工的な交配によって誕生したと言われており、自然に増えることがないため、現在見ている「ソメイヨシノ」はすべて原木より「取り木」や「接ぎ木」といった方法で増えているため、世界中にあるすべての「ソメイヨシノ」はまったく同じDNA配列を持っている、1本のオリジナルからの「クローン」となります。
隣の桜はキレイに見えますが「ソメイヨシノ」であれば理論的には同じ地域で、同じタイミングで、同じ形や同じ色の花が咲くことになるため桜前線として、春の指標として「ソメイヨシノ」は標本木として使われてきました。
我々が住む根室は多くの自然に囲まれる街としてその恩恵を受けて発展してきましたが、その自然とのあり方については度々議論となります。「自然は人の手を入れずに自然のままがいい」という考えもあるのですが、この「ソメイヨシノ」を例に出すならば、人の手を借りなければ、百年も待たずに全滅すると言われています。しかし、「ソメイヨシノ」は人を魅了する美しい花を咲かせることによって種の保存を図ってきました。又、人間も桜を川沿いに植えることで、多くの人が花見に訪れるために川沿いの土手が踏み固められ、川の決壊を防ぐようにと、うまく桜を利用してきました。
人と自然、相反するもののように感じますが、人が創る自然もまた自然となります。一方的な考えに凝り固まるのではなく、人と自然との共存が双方にとってベストな選択になるのかもしれません。
美しい桜の花も見ることが出来るのも1年のうち1週間程度です、美しいものを美しいと言える心の余裕が人には必要かもしれません。私は「花より団子」派ですが。
魚谷 直世 記
今回の店主雑感のご意見、ご感想等お願いいたします。