2016.12月号
「4年前の忘れ物 」
今年の日本シリーズは北海道日本ハムファイターズが10年ぶり3回目の日本一で幕を閉じました。初戦でエース大谷翔平投手が打ち崩され、そのまま2連敗から3戦目も広島カープの黒田博樹投手「最後の力投」により抑え込まれ、このまま3連敗かという空気が流れました。しかし、6回途中に足を痛め無念の降板、その後の延長で大谷選手のサヨナラヒットから逆転勝利し、その後は4連勝とマンガのような展開で見事に「4年前の忘れ物」を取りました。
2012年の就任時は監督経験がないため「素人監督」と言われていましたが、現在は「人を育てる名将」とまで言われるようになった日本ハムの栗山監督は今回の日本シリーズでも緻密な采配が冴え、幾度となく流れを変えてきました。それに対し、広島カープの「赤鬼」とも呼ばれる緒方監督はシーズン中の必勝パターンを変えることが出来ず、「流れ」よりも「型」を重視したため、そこを攻略され負けたと言われていますが、これは結果論であり、両チームの戦力は拮抗いたため時の運で広島カープが勝つ可能性は十分にあり、もし広島カープが優勝したならば、両監督の評価はまったく逆なものになっていた可能性があります。
どのようなスポーツや文芸においても基本となる「型」は重要であり、「型」を極めることなくプロにはなりえません。しかし、その型を外れた発想や行動は稀に奇跡を起こすことがあり、その最たる例が大谷翔平選手の投手打者の二刀流ではないでしょうか。4年前の日ハム入団からこの二刀流宣言をした際には、ほとんどの野球評論家は否定的であり、野村克也氏には「野球をなめている」とまで言われ「俺が監督ならピッチャーのみ」と言っていましたが、こういった型にハマった考えのみでは少なくとも、今回の日本シリーズは勝てなかったと思います。
この多くの人が深く考えずに「常識」と考えていたことを、根拠と信念を持ってうち破っていく、今までの人類の進歩はそのような勇気のある人に支えられてきました。日本は2008年頃より戦後初めて人口が減少したことで、昨年と同じことをすればいいというビジネスモデルの「型」が根底から覆されました。これからの時代、ビジネスは投手打者の二刀流どころではなく、野球とサッカーの二刀流ぐらい両立でなければ、成り立たないのかもしれません。
魚谷 直世 記
今回の店主雑感のご意見、ご感想等お願いいたします。