2015.5月号
「社会の公器 」
老舗家具大手の大塚家具は、創業家父娘の対立泥沼化で話題となり注目の中、今年の3月に開かれた株主総会では娘であり現社長の久美子氏が61%の議決権を得て経営権を実父である勝久氏から守りぬきました。この問題は今に始まったことではなく2009年に久美子氏が勝久氏より社長に変わった後の企業方針変更に起因しており、大塚家具従来のマンツーマン接客での高級家具路線からニトリやIKEAといった低中価格帯重視の入店しやすいカジュアルな店づくりを進めたことで、一代でブランドと言われる大塚家具を創り上げた勝久氏が反発、昨年7月の取締役会で久美子氏を一端解任し再び勝久氏が社長に就任し、半年後の本年1月には再び久美子氏が社長に復帰することで、今回の会長解任の株主総会とオセロゲームのように社長が変わっていく異常事態となりました。
家具の業界はわかりませんが、入店と同時に店員がピタリと付き、平均接客時間は2時間を超えると言われる勝久氏の販売方法は、今の時代に即していると私は思えません。店員の情報が唯一であり、信頼関係によって売買が成り立っていた昔とは違い、今の時代はスマホによりインターネットで事前に情報を収集し、店舗には実際の商品を確かめに行くというパターンが多く、店員との会話は価格交渉のみ。そのような意味ではお客様と店員の関係が希薄になってきているとも言えます。しかし、今後の時流に合わせ低中価格帯商品を重視していく戦略もニトリが先行しており成否は未知数であり、勝久氏も大株主として株主提案をし続けることを考えると、先行きは厳しいと言わざるをえません。
「企業は社会の公器である」パナソニック創業者の松下幸之助氏はこのように企業の社会的役割を述べました。会社というのは社長や会長の所有物ではなく、会社を構成する社員がおり、商品を購入するお客様がいることで成り立ち、社会によって生かされ、社会を創っていくのが企業だと思っています。規模の大きさは違いますが同じ同族企業として今回の件は企業の社会的役割を考えるいい機会になりました。
魚谷 直世 記